2026年10月1日、改正労働施策総合推進法の施行により、事業主には職場のカスタマーハラスメント(カスハラ)を防止するための雇用管理上の措置が義務付けられました。本記事は、中小企業の総務・人事・お客様相談室の責任者を対象に、「9月中に決めること」「10月1日に整っているべき状態」「施行後1か月の点検」を時間の順序で整理します。制度の全体像と措置の一覧は2026年10月1日施行|企業に義務付けられるカスタマーハラスメント防止措置とはにまとめており、本記事では繰り返しません。
9月中に決めておくこと
指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、対処の内容、相談窓口、特に悪質と考えられる事案への対処の方針の3つを「あらかじめ定め」ることを求めています。施行日に「定めてある」状態にするため、9月中に次を決めておきます。このうち責任者・判断権者と記録の様式は、指針が定める措置ではありませんが、あわせて決めておくと運用しやすくなります。
- 責任者と判断権者:防止措置全体の責任者、相談窓口の担当者(外部の機関への委託も指針の例にあります)、担当交代・対応終了・警察通報等を判断する人と、その不在時の代替者。
- 方針を書く文書:指針は記載先を限定せず、社内報・パンフレット・社内ホームページ等、顧客対応マニュアル、研修・講習を例示しています。就業規則、社内規程、マニュアル、掲示のどこに書くかを決めます。入れる項目はカスタマーハラスメント対策方針に入れたい基本項目を参照してください。
- 判断の物差し:現場が「該当するか微妙」と感じたときの相談先。3要素の見方はクレームとカスタマーハラスメントの違い|判断に必要な3つの要素にまとめています。
- 特に悪質な事案の対処方針:警察通報、警告、法令の範囲内でのサービス提供停止等のうち自社で実行できるものと、その判断権者。作り方はクレーム対応の属人化を防ぐエスカレーション基準を参照してください。
- 記録の様式と保管場所:10月1日から使う様式を1つに決めます。項目は記録と報告のばらつきを減らすクレーム対応シートの基本項目を参照してください。
決めた日付と決めた人も残します。後述する改定日・周知日の整理に使います。
10月1日は準備の締切ではなく、運用の開始日
施行日の朝に整っているべきものは、指針が定める措置と、あわせて決めておくと運用しやすいことに分けると、次の5つの観点にまとまります。
指針が定める措置
- 方針と対処の内容の周知(管理監督者を含む労働者へ)
- 相談窓口と、その利用方法の周知(窓口の担当者が適切に対応できる準備を含む)
- 特に悪質な事案への対処方針の周知と、その対処を行える体制
- プライバシー保護と、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止の定めと周知
あわせて決めておくと運用しやすいこと
- 誰が判断するか(判断権者と不在時の代わり)と、記録の様式・保管場所
観点ごとに整っているかどうかは、登録不要のカスタマーハラスメント防止措置 初期整備チェックリスト(21項目)で確認できます。誰が、どの文書で、いつまでに整えるかを担当・期限つきの一覧に落としたものは、カスタマーハラスメント防止措置 初期整備支援の成果物「導入チェックリスト」として、貴社の組織に合わせて整えます。
間に合わない項目があれば放置せず、暫定の扱い(例:窓口は当面、総務責任者が兼任)と正式版の完成期限を決めて明文化します。改正法第33条第1項は主語を「事業主」としており、企業規模による区別は置かれていません。中小企業も10月1日を基準に整えます。
施行日以降に起きた事案の扱いと記録の開始
10月1日以降に労働者から相談があった事案は、指針が定める「事実関係の迅速かつ正確な確認」「被害者に対する配慮のための措置」「再発防止に向けた措置」の流れで扱います。要点は3つです。
- 相談の入口を広く取る:指針は、現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や該当するか微妙な場合も広く相談に対応することを求めています。窓口が入口で「該当しない」と判断しない運用にします。
- 事実確認の方法を決めておく:相談者のほか、周囲の労働者からの聴取、録音・録画等の客観的な証拠の確認が例示され、その際は個人情報保護法等の遵守が求められています。事実が確認できなかった場合も、方針の再周知などの再発防止措置は同様に講ずることとされています。
- 記録は10月1日から統一様式で:指針は「必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられる」としています。記録の開始日を決め、同じ様式で残します。
施行日より前から続く事案に10月1日以降の相談や再度の申出があった場合は、新しい手順で扱い、それまでの経緯も分かる範囲で記録します。施行日前の言動の法的な位置づけは事案ごとに異なるため、弁護士・社会保険労務士等へ確認してください。
既存規程の改定日・周知日の整え方
既存の文書へ追記する場合、後から「いつ決め、いつから有効で、いつ誰に知らせたか」を説明できるようにします。残す日付は4つです。
- 決定日:責任者または経営者が方針・対処内容・窓口を決裁した日
- 改定日(有効日):改定版が効力を持つ日。10月1日に合わせるか9月中に前倒しするかは自社の判断ですが、10月1日より後にしないようにします
- 周知日:配布、社内ホームページ掲載、掲示、研修・講習など、方法ごとの実施日。管理監督者への説明日も別に残します
- 社外表示の開始日(任意):顧客等への方針表示を行う場合。考え方は対策方針の記事の「社内向け方針と社外表示文」を参照してください
不利益取扱いの禁止について、指針は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」に規定して周知・啓発する例を挙げています。就業規則を改定する場合は、変更手続の要否や順序を社会保険労務士等へ確認してください。
施行後の最初の1か月で点検する観点
10月末までに一度、次の4つの観点で振り返ります。
- 相談は届いているか(相談がないことは、問題がないことを意味しません)
- 窓口と判断権者は機能したか
- 記録は決めた様式・場所で残っているか
- 現場の質問を、方針・対処内容・研修へ反映したか
あわせて、改正法第33条第3項が事業主に求める、他の事業主からの協力の求めに応ずる努力に対応する窓口があるか、次の見直し日を決めたかを確認します。指針は、労働者や労働組合等の参画を得つつ、運用状況を把握して見直しを検討することが重要としています。具体的な点検項目と見直しの進め方は、導入後の運用改善としてクレーム対応ワークフロー最適化の範囲でご支援しています。継続的な更新の流れは法改正・指針の更新を社内対応へ反映する手順にまとめています。
インテグレスの見解
施行日は準備の締切ではなく、運用が始まる日です。9月に決める、10月1日に最低限を揃える、1か月で点検して直す、という3段に分けると、担当者が一人で抱え込まずに進めやすいと考えています。整備状況の自己点検にはカスタマーハラスメント防止措置 初期整備チェックリストを、方針案・相談経路・初期対応フロー・記録様式を短期間で揃える場合はカスタマーハラスメント防止措置 初期整備支援をご利用ください。
出典
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(確認日:2026年9月18日)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)(確認日:2026年9月27日)
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」(確認日:2026年9月18日)
- e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(2026年10月1日時点の条文)(確認日:2026年9月18日)
公式資料の本文・図表は転載せず、要点の紹介に留めています。
詳細は出典ページをご確認ください。
本記事は一般的な情報です。
個別の法的・労務的判断は弁護士・社会保険労務士等へご確認ください。
すべての苦情や要望がカスタマーハラスメントに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われた正当な申入れは該当しません。
最終確認日:2026年9月27日