中小企業の総務・人事担当者のための、カスタマーハラスメント対策Q&A読み解きガイド

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が、企業規模を問わずすべての事業主の義務になります。中小企業向けの猶予期間は設けられていません。9月中に決めることや施行後の点検の流れはカスタマーハラスメント防止措置の義務化|10月1日施行をまたぐ実務の順序で整理していますが、本稿では条文や指針本文だけでは判断に迷いやすい論点を、厚生労働省が2026年4月24日に公表した全41問の解釈事項Q&Aに沿って5つ取り上げます(全問の網羅ではありません)。

事業主の方針は、顧客にも周知しなければならないのか

カスタマーハラスメント防止指針が義務として求めているのは、「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」旨の方針を、管理監督者を含む労働者に周知・啓発することです。Q&Aは、この方針を顧客等に周知することまでは義務付けていないと明言する一方で、周知・啓発することは被害の防止に当たって効果的と考えられる、とも述べています。義務の対象は社内周知であり、顧客への周知は任意の「望ましい取組」という整理です。社内報やパンフレット、社内ホームページへの掲載、トップメッセージとして社内へ発信する例なども、方針を明確化し周知していると認められる例として挙げられています。

何を基準に「カスタマーハラスメント」と判断するのか

職場におけるカスタマーハラスメントは、①顧客等の言動であって、②業務の性質その他の事情に照らし社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要素をすべて満たす場合に該当するとされています。②の判断に当たっては、「言動の内容」と「手段や態様」のいずれか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得るとされており、言動の目的、労働者側に問題行動があったかどうか、業種・業態、頻度や継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮するものとされています。

なお、都道府県労働局は、個々の言動がカスタマーハラスメントに当たるか否かを判断してくれるわけではなく、事実関係の確認と該当性の判断は、あくまで事業主自身が行う必要があるとされています。③の「就業環境が害される」かどうかは、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち社会一般の労働者が同様の状況で看過できない程度の支障を感じるかどうかを基準とし、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動であれば1回でも該当し得るとされています。

「顧客等」にはどこまでの相手が含まれるのか

「顧客等」は、一般にイメージされるより広く整理されています。まだ契約していない見込み客からの言動、今後利用の見込みがない施設の近隣住民からの言動も、3要素を満たせば該当し得るとされています。また、業務で訪問した先の取引先事務所での担当者や、訪問介護・訪問看護のように顧客等の自宅で行うサービスの利用者・家族も「顧客等」に含まれるとされています。

さらにQ&Aは、「顧客等」には「取引の相手方」も含まれることから、直接の顧客対応が発生しない部署の労働者に対しても、方針や対処内容の周知が必要だと述べています。BtoB中心の企業であっても、取引先担当者からの著しい迷惑行為が対象になり得るという整理であり、社内周知の範囲を「接客担当だけ」に限定しない対応が求められます。

相談窓口は専用の仕組みを新設しなければならないのか

Q&Aは、カスタマーハラスメントの相談窓口を、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの窓口と別立てで設ける必要はなく、一体的な窓口でよいとしています。むしろ、現場で直ちに対応が必要な場面が多いことを踏まえ、労働者の上司に当たる管理監督者を相談対応の担当者と定めることも認められるとされています。「相談窓口」と「相談に対応する担当者」は同じ意味ではなく、担当者をあらかじめ定めておくことが、窓口を設けたと認められる例の一つとして示されています。

従業員が1名の店舗など、体制が限られる事業所についても、十分な説明の上でなお要求が続く場合の退店要求、暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動での警察への通報、現場対応が困難な場合の本社・本部への情報共有といった、実情に応じた対処内容をあらかじめ定めておくことが考えられる、とされています。

中小企業への猶予や、守らなかった場合の扱いはどうなるのか

今回確認したQ&A・指針・施行通達のいずれにも、企業規模による猶予期間や適用除外の記載は見当たりませんでした。2026年10月1日から、企業規模を問わずすべての事業主に義務が生じます(Q&A本体の表紙にも、令和8年10月1日適用と明記されています。なお一部の設問はパワーハラスメント・セクシュアルハラスメントに関する既存規定の明確化であり、これらのみ2026年4月24日から適用されるとされていますが、カスタマーハラスメントに関する新規の義務自体は10月1日一律です)。

履行確保の仕組みについては、施行通達に、厚生労働大臣又は都道府県労働局長が、法の施行に関し必要があると認めるときは事業主に助言、指導又は勧告を行うことができる旨、また勧告に従わない事業主については、その旨を公表することができる旨が示されています。罰則を伴う制度ではありませんが、行政からの働きかけの対象になり得ることは、社内での準備を進める上で押さえておく必要があります。

インテグレスの見解

Q&Aは、義務の範囲を絞り込むための道具です。判断に迷う場面ほど、社内だけで抱え込まず、確認した根拠と判断の経緯を記録に残すことが、後々の説明のしやすさにつながると考えています。自社の整備状況の自己点検にはカスタマーハラスメント防止措置 初期整備チェックリストを、方針・相談経路・初期対応・記録の整備を短期間で進めたい場合はカスタマーハラスメント防止措置 初期整備支援をご利用ください。

出典

公式資料の本文・図表は転載せず、要点の紹介に留めています。
詳細は出典ページをご確認ください。

本記事は、公表されている厚生労働省の資料の記載内容を要約・整理したものであり、法的助言を行うものではありません。
個別の事案がカスタマーハラスメントに該当するかどうかの判断や、社内規程・就業規則の改定、行為者への対応方針の策定に当たっては、弁護士・社会保険労務士等の専門家と連携の上でご検討いただくことをお勧めします。

最終確認日:2026年9月22日

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