2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が、企業規模を問わずすべての事業主の義務になりました。施行にあわせて「勧告に従わない場合は公表される」と報じられ、不安を感じた方もいるかもしれません。本稿では、厚生労働省の施行通達に書かれている範囲で、行政が関わる順序と、公表の位置づけを整理します。措置の内容は2026年10月1日施行|企業に義務付けられるカスタマーハラスメント防止措置とはに、施行をまたぐ実務の順序はカスタマーハラスメント防止措置の義務化|10月1日施行をまたぐ実務の順序にまとめているため、ここでは繰り返しません。
行政の関わりは、助言・指導・勧告から始まる
施行通達は、厚生労働大臣または都道府県労働局長が、法の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して助言、指導または勧告をすることができるとしています(法第42条第1項)。「必要があると認めるとき」とは、法が事業主の責務とした事項が十分に行われていないと考えられ、その遂行を促すことが法の目的に照らして必要なとき等をいう、と説明されています。
きっかけは問われません。通達は、労働者からの申立て、第三者からの情報、職権等、その端緒を問わず、必要に応じて行使し得るとしています。「相談がなければ関わらない」という仕組みではないため、自社の体制は、申立ての有無にかかわらず整えておく必要があります。
公表の規定は、厚生労働大臣が自ら勧告した場合
公表については、通達に次の趣旨の記述があります(法第42条第2項)。厚生労働大臣は、カスタマーハラスメント防止措置を定めた法第33条第1項・第2項などの規定に違反している事業主に自ら勧告をした場合に、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる、というものです。
整理すると、公表の条件は次の3つです。
- 措置義務の規定に違反していること
- 厚生労働大臣が自ら勧告をしたこと
- 勧告を受けた事業主が、これに従わなかったこと
通達は、助言・指導・勧告の権限を都道府県労働局長に委任しており、厚生労働大臣が自らその権限を行う事案の例として、次を挙げています。複数の都道府県にまたがり調整が必要な事案、社会的に広範な影響があると考えられる事案、都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案等です。
なお、公表の対象や方法について、通達の該当箇所に細かい定めは見当たりません。報道で使われる「社名公表」という言い方は通達の言葉ではないため、本稿では「公表」と表記しています。
公表は「罰則」とは別の仕組み
公表は、罰金のような刑罰ではありません。一方で、報告の請求には別の定めがあります。厚生労働大臣または都道府県労働局長は、措置義務の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に報告を求めることができます(法第45条第1項)。この報告をせず、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料の対象になります(法第51条)。
つまり、措置を講じていないこと自体が直ちに過料になるのではなく、行政から求められた報告に応じない場合に過料が定められています。通達は、助言・指導・勧告を適切に行う前提として報告の請求があるためと説明しています。
段階を知ったうえで、自社でできること
行政との関わりが助言・指導・勧告の順であることを知っておくと、「何を整えておけば説明できるか」が見えてきます。指針が定める措置は、方針の明確化と周知・啓発、相談窓口の整備、事案への対応(事実確認・配慮・再発防止)などです。実務では、次の3点を先に押さえます。
- 方針・対処内容・相談窓口・特に悪質と考えられる事案への対処方針を、文書で決めてあるか
- 決めた日・施行日・周知した日を、後から説明できる形で残しているか
- 労働局等から報告を求められたときに、誰が、何を、どこから出すかが決まっているか
どれも、施行日以降に整えても遅いというものではありません。ただし、決めたことと実際の運用がずれないよう、点検の日を決めておくことが大切です。公表に関する施行通達の記述は、厚生労働省のQ&Aを整理した中小企業の総務・人事担当者のための、カスタマーハラスメント対策Q&A読み解きガイドでも触れています。
インテグレスの見解
公表の規定は、勧告を受けた後も是正に向かわない場合に備えて置かれている仕組みと理解しています。大切なのは、公表を恐れて形だけ整えることではなく、相談窓口・判断・記録が現場で動く状態にすることです。自社の整備状況の自己点検にはカスタマーハラスメント防止措置 初期整備チェックリストを、方針・相談経路・初期対応・記録の整備を短期間で進めたい場合はカスタマーハラスメント防止措置 初期整備支援をご利用ください。
出典
公式資料の本文・図表は転載せず、要点の紹介に留めています。
詳細は出典ページをご確認ください。
本記事は、公表されている厚生労働省の資料の記載内容を要約・整理したものであり、法的助言を行うものではありません。
個別の事案がカスタマーハラスメントに該当するかどうかの判断や、社内規程・就業規則の改定、行為者への対応方針の策定に当たっては、弁護士・社会保険労務士等の専門家と連携の上でご検討いただくことをお勧めします。
最終確認日:2026年10月1日