対応を打ち切る線をどこに引くか|大阪市のカスタマーハラスメント提訴議案から考える

2026年9月30日、大阪市会は、市民への訴訟の提起を求める議案(議案第126号)を原案どおり可決しました。一つの自治体の事案であり、民間企業にそのまま当てはまるものではありません。ただ、この議案は、カスタマーハラスメントへの対応で現場が悩み続ける問い、「どこまで対応し、どこで打ち切るか」を考える材料になります。本稿では、公表されている議案の内容と大阪市の基本方針、厚生労働省の指針をもとに、対応を打ち切る線の引き方を整理します。

議案第126号で決まったこと

大阪市会の議決結果によると、議案第126号「訴訟の提起について(経済戦略局関係)」は、9月18日の都市経済委員会で原案可決、9月30日の本会議でも原案可決となりました。議案概要では、事件名は「面談強要行為等差止等請求事件」とされ、請求は次の2つです。

  • 面談の強要、大声や罵声、脅迫、業務に支障をもたらす態様での架電の差止め
  • 職員が妨害行為への対応に要した時間に係る給与相当額(398,622円)の損害金の支払い

提訴は、報道によれば10月の予定です。議案概要には、相手方を特定する情報は書かれていません。本稿でも個別の事案の評価はせず、公表された範囲の事実だけを扱います。

大阪市の基本方針が示す対処

大阪市は2025年10月、職員に対するカスタマーハラスメント対策基本方針を定めています。基本方針は、職員が被害を受けた場合の対応として、警告を行う、対応を終了するなど組織的に毅然と対応すること、状況に応じて、庁舎からの退去命令、警察への通報、法的措置をとることを挙げています。該当する言動の例には、長時間または頻繁な電話、居座りや不退去も含まれています。

民間企業の指針も、「特に悪質な事案」への対処を求めている

厚生労働省の指針は、事業主に対し、労働者に過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、その対処を行うことができる体制を整備することを求めています。対処の例として、犯罪に該当し得る言動は警察に通報すること、行為者に警告文を発出すること、法令の制限内で商品の販売やサービスの提供をしないこと、店舗や施設への出入りを禁止すること、民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てることなどが挙げられています。ただし、業法等による定めがある場合など、業種や業態によって必要な対応は異なるため、それぞれの状況に応じた方針を定めることが効果的とされています。

「線」を現場の判断に任せない

打ち切りの判断を担当者個人に任せると、その場の感情や遠慮に左右され、対応が長引きます。次の5点を文書で決めておくことが出発点です。

  1. 何を超えたら警告するか(時間、回数、言動の内容)
  2. 警告の次に何をするか(対応の終了、上位者への引き継ぎ)
  3. 誰が判断するか(担当者ではなく、責任者または窓口)
  4. 外部へ相談・通報する基準(警察、弁護士)
  5. 記録の様式(日時、回数、時間、内容、対応者)

上位者へ引き継ぐ条件の考え方はクレーム対応の属人化を防ぐエスカレーション基準|悪質な事案への対処も整理で、記録の項目は記録と報告のばらつきを減らすクレーム対応シートの基本項目で整理しています。

記録が、後の判断の根拠になる

大阪市が損害金として求めているのは、対応に要した時間に係る給与相当額です。時間を数字で示すには、日時と対応時間の記録が必要です。民間企業が同様の請求をするかどうかは別の判断ですが、記録が残っていないと、打ち切りの判断も、警察や弁護士への相談も、説明が難しくなります。

法的措置は最後の段階

警告、対応の終了、退去、通報を経たうえでの法的措置は、最後の手段です。そこに至る前に、線を決め、記録を残し、組織で判断する体制を整えておくことが、現場を守る実務の中心になります。法的措置を検討する場合は、請求の可否や見込みを含め、弁護士にご相談ください。なお、10月1日の施行前後の実務の順序はカスタマーハラスメント防止措置の義務化|10月1日施行をまたぐ実務の順序にまとめています。

インテグレスの見解

対応を打ち切る線は、担当者の我慢の限界ではなく、会社が事前に決めた基準であるべきだと考えています。基準があれば、担当者は迷わず、責任者は同じ尺度で判断できます。自社の整備状況の自己点検にはカスタマーハラスメント防止措置 初期整備チェックリストを、方針・相談経路・初期対応・記録の整備を短期間で進めたい場合はカスタマーハラスメント防止措置 初期整備支援をご利用ください。

出典

公式資料の本文・図表は転載せず、要点の紹介に留めています。
詳細は出典ページをご確認ください。

本記事は、公表されている資料の記載内容を要約・整理したものであり、法的助言を行うものではありません。
個別の事案への対応や法的措置の可否については、弁護士・社会保険労務士等の専門家と連携の上でご検討ください。

最終確認日:2026年10月1日

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